局所排気装置は、工場や作業場で発生する有害な物質を屋外に排出し、作業員の安全を保つための装置です。特定化学物質を取り扱う工場には局所排気装置の設置が義務付けられていますが、もし、必要な場所で局所排気装置が設置されていないと、事故が起こる可能性があります。
ここからは局所排気装置がないことで起きた事故の事例を紹介していきます。
市庁舎の新築工事中に起きた事故の事例です。事故が発生した際、一部の塗装や設備を残して、全体の9割は進捗していた状況でした。事故が起きたのは、庁舎内の内壁塗装箇所です。事故の当日、被災者2名は事故発生箇所の周囲の養生を行いました。11時30分頃から下塗りを開始。その後応援の作業員が訪れ、3人で塗装作業を行っていたところ、3人ほぼ同時刻に意識がもうろうとしはじめ、戸口に座り込んでしまいました。12時10分頃に現場監督が到着し、発見。無事救出されました。
3人は下塗り剤に含まれるトルエンの蒸気を吸入したことで、被災したものとみられます。局所排気装置なしで屋内の作業場で有機溶剤業務を行ったうえ、防毒マスクも使用していなかったことが原因です。有機溶剤作業主任者も未専任であり、作業管理も適切ではありませんでした。衛生教育も不十分だったため、作業者の認識も希薄だったと思われます。
第二種有機溶剤を取り扱う業務では、局所排気装置を設けることで対策ができます。今回の事故のように壁面の塗装を行うときは、蒸気の発散面が広いので、全体換気装置を設置することで十分な換気を行います。
警報装置などを設置しておけば、有機溶剤の空気中の濃度が急激に上昇した時にも有効です。防毒マスクの使用も対策になります。作業者に対しての衛生教育の徹底と有機溶剤作業主任者の専任も必要です。
参照元:厚生労働省_職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=000801)
栽培工場で、カビが付着した栽培培地を粉砕処理中に起きた事故です。栽培培地にカビが大量に生えていたため、農家に肥料として提供するために、粉砕機で粉砕することになりました。
培地の粉砕作業を開始してから数分後に給気ファンと排気ファンを稼働。しかし、視界が悪くなるほど粉じん濃度が高く、作用は中止になりました。その後、作業者は発熱や咳の症状が現れ、病院を受診した結果、過敏性肺炎と診断されました。被災者は作業に従事していた、約10名です。当時排気装置や注水設備は備えられておらず、防塵マスクの着用もなかったそうです。
事故の原因は、培地に多量のカビが生えていたことです。そのカビが生えた培地を大量に粉砕したことで、大量の粉塵が発生。作業者がばく露しました。粉塵の発生を抑える装置や呼吸用保護具の着用もなかったため、被災したと考えられます。作業を始める前に、作業の危険性や有害性について検討していなかったことも問題です。
カビが生えた粉じんが大量に発生したことが原因のため、カビなどが多量に付着した培地を粉砕する場合は、注水するなど粉塵の飛散対策を行う必要があります。粉塵の対策をしても粉塵にばく露する恐れがある場合は、呼吸用保護具を使用して、被災を防ぎます。
作業前には危険有害性を調査・評価し、危険有害性を低減する備えが必要です。また、作業者や労働関係者については、有機粉じんについての教育を徹底する必要があるでしょう。
参照元:厚生労働省_職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101643)
橋梁塗装の剥離作業中に起きた中毒事故の事例です。夏の気温が高い日の午後、橋梁の塗り替え塗装のため、電動ファン付き呼吸用保護具を着用してベンジンアルコール30~40%を含んだ剥離剤の吹付け作業が行われていました。作業は作業員が単独で行っており、倒れていたところを発見されました。
作業場所は塗料に含まれるPCB及び鉛の飛散防止のため、隔離措置が施された空間でした。風の通りもなく、有機ガスの濃度は上がりやすい状態にもかかわらず、排気装置の設置は行われていなかったようです。
作業時に呼吸用保護具は使用していたものの、狭く閉塞的な場所で有機溶剤を含む剥離剤を使用していたため、暑さや息苦しさで呼吸用保護具をずらしてしまったことが可能性として考えられます。夏の気温が高い時には、有機溶剤の濃度も上昇するため、呼吸用保護具の防護力を超えてしまった可能性もあります。
十分な換気がされてなかったうえ、単独での作業だったため発見も遅れてしまいました。
夏季など気温が高い時期には有機溶剤濃度が上昇するため、剥離剤を使用する作業は基本的に避けることです。気温が高い時期に作業する場合は、空調装置によって早期を冷やすことも可能です。作業中には水分補給も難しいため、頻繁に休憩時間を設けることも大切でしょう。
作業場を密閉化する場合は、強力な換気装置を使用し、常に新鮮な空気を供給するようにします。送気マスクを使用する際には、使用方法に十分注意し、安全対策を講じましょう。また、単独での作業は危険です。作業者が体調不良になった場合に備えて、監視者を置くことで対策になります。
参照元:厚生労働省_職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101634)
養生治具の洗浄作業中におきた有機溶剤中毒の事例です。
自動車部品の塗装作業における養生治具の洗浄作業に使用する洗浄剤に、1-ブロモプロパンが含有しており、洗浄作業中に事故が発生しました。
洗浄層内に1-ブロモプロパンを含有する約15L の洗浄液を入れ、養生用治具を含侵。養生治具を洗い場に取り出してブラシで洗浄し、エアーブローで乾燥させる作業を行っていた作業員が吐き気を訴え、医療機関を受診しました。作業場には局所排気装置は設置されておらず、受診の診断の結果は有機溶剤中毒でした。
洗浄作業場には局所排気装置は設置されておらず、換気設備が設置されていましたが能力が十分ではなかったことが原因の一つです。さらに、呼吸用防毒マスクの着用が徹底されていなかったこと、保護具の管理も徹底されておらず、ばく露低減措置が講じられていなかったことが原因と考えられます。
塗装洗浄作業の際には、呼吸用防毒マスクの着用を徹底します。また、職場巡回にて着用を確認し、未使用者がいないことを確かめていきます。直結式小型防毒マスク用吸収缶の交換においては、呼吸用保護具の保守管理の徹底が必要です。
作業に関しては、作業監督者と作業者に対する安全衛生教育を実施します。
参照元:厚生労働省_職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101550)
有機溶剤を使用する作業に従事していた作業者が肝機能障害を発生した事故事例です。プリンタードラム用素材の研究開発業務に従事していた被災者は、工場にてテトラヒドロフランを使用する有機溶剤業務に従事していました。従事していた期間は16年間ですが、その間有機溶剤特殊健康診断では所見は認められていませんでした。
その後、クロロホルムを使用する業務を行ったところ、有機溶剤特殊健康診断で肝機能に異常が見つかりました。この業務は、局所排気装置が設置されていない場所で行われていたそうです。
事故の原因は、局所排気装置のフードが設置されていない場所で有機溶剤業務を行ったためと考えられます。防毒マスクは着用していましたが、会話時や息苦しい時には外すこともありました。有機溶剤作業主任者も作業について危険有害性を認識しておらず、適切な作業方法を選択しなかったことも問題と考えられます。
このトラブルに関しては、化学物質に係るリスクアセスメントを再度実行する必要があります。作業者に対しては、危険有害性の教育を徹底することが大切です。防毒マスクの着用についても再度教育を行い、管理者が着用状況を見回り確認する必要があるでしょう。防護メガネ・手袋などで保護されていない部分には、保護クリームなどで措置を講じます。
有機溶剤の発生源には、局所排気装置のフードを設置することで対策できます。
参照元:厚生労働省_職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101324)
今回紹介した事故事例を見てみると、局所排気装置の設置がいかに重要かが分かります。有機溶剤業務を甘く見ていると、重大な事故になりかねません。事故が起きる前にリスクアセスメントを実行し、局所排気装置を設置することが大切です。
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それぞれ排気装置の設置場所が違えば、機器の導入の際に検討するべきポイントも変わってきます。ここでは「製造現場」「研究現場」「塗装現場」それぞれの設置場所に合わせて、排気装置メーカー3社をご紹介します。
導入を考えている場所と排気装置の特徴を見比べて、自社に合った排気装置選びの参考になさってください。